あなたの見えているもの、それは現実ですか? 「見てしまう人びと 幻覚の脳科学」レビュー
あなたが見えているもの、それは本当に存在するものだと言えますか?
幻覚とは、自分の外に現実がともなっていないのに生まれる知覚のことです。
電車の外に走っている忍者が見えたり、床にアリエッティのような小人が見えたりしたときは幻覚を見ている可能性が高いでしょう。
あなたはそんな時にどうしますか?
著者のサックスによれば、そんな幻覚は全く不名誉なことでなく、人間の新たな精神活動であるとさえ言います。
今回はそんな幻覚についての実例や知見を与えてくれる、サックスの医学エッセイを紹介します。
見てしまう人びと 幻覚の脳科学
オリバー・サックスについて
この本の著者であるオリバー・サックスはイギリスの精神科学者です。
現在はコロンビア大学医科学大学院で教授をしており、たくさんの一般医学啓蒙書を執筆しています。
他にはロバートデニーロが演じた「レナードの朝」の原作者でもあり、かなり有名な医学系作家です。
この本も啓蒙書の一冊で、幻覚、特に神秘体験やドッペルゲンガー、幽霊など一般に幻覚といわれるものをすべて網羅した「幻覚大全」のような一冊になっています。
この本について
「幻覚」と「夢想」は別のものです。
「夢想」の場合は、頭の中のイメージには細部がなかったり、眼球運動は見られないなどの特徴があります。
しかし「幻覚」は、見ている本人には現実との区別はつきません。
本物とほぼ同じものが見られ、同じ近く体験もあると言われています。
またその場合に眼球運動はあり現実と遜色ない動きをする上に、感触などの近く体験が伴います。
そんな幻覚をきっかけにし、人間の脳機能や心の現象がわかりやすく書かれています。
患者の実体験
医学的な内容も分かりやすい記述が多数ありますが、私たちの幻覚に対する理解は浅いです。
実際に「患者は何を見ているのか?」「幻覚なんてただの見間違いでしょ」などといった疑問を持っている方も多いでしょう。
この本では各章の前半は患者とのインタビューから得られた実体験になっています。
患者のバックグラウンドや見えてみるものが詳細に綴られており、幻覚の体験を詳しく知ることが出来ます。
特に印象的なのは、第1章のシャルル・ボネ症候群の患者の実体験です。
シャルル・ボネ症候群(CBS)とは
この病気は視覚に現れる病気で、幻視として症状が発生します。
その内容は異国風の楽しい幻覚が多く、見ている本人でさえこれは幻覚であると冷静に判断できるほどです。
この本にもCBSと診断された患者のエピソードがあり、「陽気な衣装を着た人が部屋に入ってきた」や「頭に小さい箱を乗せた女の人が見える」など事細かに語られています。
今までの「自分たちの幻覚についての認識は間違っていたのか!」と驚かされるような点もあります。
このように彼の著作には患者のエピソードが多数あり、高機能自閉症と診断された患者についての「火星の人類学者」という本は全米ベストセラーにもなりました。
幻覚と文化
この本は患者の実体験や幻覚に関する歴史的事実も学べるオールマイティーな本になっています。
多くの文化は幻覚を特別な意識状態とみなしていて積極的に求めているという面もあります。
「小人の幻覚が民間伝承を生んだのか?」や「悪夢の幻覚が魔女の元になったのでは?」などの仮説が考えられています。
他にも片頭痛などの時に見らえる模様がアボリジニ芸術のモチーフになっているかもしれないなど、幻覚と文化の繋がりはかなり深いです。
幻覚について詳しく知ることは文化について深く知ることにも関わってくるでしょう。
最後に
いかがだったでしょうか。
この本は幻覚の症状や歴史などから多面的に脳科学が学べる一冊になっています。
予備知識等は全く必要なく、患者のエピソード等を交えながら楽しく幻覚について知ることが出来ます。
この本を読んで、新しい視点を持ってみませんか?